名前を教えてあげる。


ある朝、いつものようにバレエスタジオに向かう途中のことだった。
紗江は心筋梗塞を起こして、あっと言う間に死んでしまったんだよ。

21歳の誕生日目前にして。

もともと心臓が弱かった紗江は、育児とバレエの両立など難しかった。

それなのに、「五郎さんの子供が早く欲しい」という紗江の言葉を鵜呑みにして、紗江を身篭らせちまった…


婆さんの悲しみは、やり場のない怒りに変わって俺に向けられた。

30過ぎた男が若い娘に逃げられないようにと孕ませた結果、紗江の寿命を縮めてしまった…と。

あんたみたいな男に親の資格はない、孫に罪はないから、私が美緒を紗江だと思って立派に育ててやるって…


身内だけの葬式で、ついに婆さんは悲しみを爆発させた。

涙を流しながら、顔を真っ赤にして俺を罵倒したんだ。


悪魔!鬼!紗江を殺したのはお前だ…

一緒にならなきゃ、紗江は死ななかった。お前がいると皆が不幸になる、早くどこかに去れ!


まだ赤ん坊のお前を俺が引き取って育てることなんか出来ねえ。
俺は1人で立ち去るしかなかったんだ…







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