名前を教えてあげる。


遥か彼方の中国山地。美緒がきた日から山頂はすでにうっすらと雪化粧を済ませていたが、さらに白い部分が増えていて、季節がさらに深まったことを知らせる。

何度見ても、神々しい。
この土地では、山こそが父だ。

優しく、厳しく人間達を見下ろし、風を送り、大地に水を恵む。


湯呑み茶碗を手で包み込むように持ち、美緒もしゃんと背筋を伸ばして、絵画のような景色を2人して共有する。


来たる厳しい季節を控え、木々は最小限の葉をだけを残し、山に住む動物達を守るためにスクラムを組む。穏やかな山並みは今が見納めだろう。

そして、その下の、今は休耕地の田圃の間を横断するきらきらとした水の流れ。
自然は徐々に色と形を変え、冬の訪れを受け入れる。


「島根の山間地方の冬は意外に厳しいんですってね。あまりイメージなかったけれど、かなりの積雪があるとか。だからこそ農作物の豊潤な実りに恵まれるのでしょうね」


みどりが、先生らしい口調で言う。


この藁葺き屋根の家も、山羊のいる小屋も、五郎の軽トラックも大雪に埋もれてしまう。

容赦無い雪に人は、なす術はない。家を守り、静かに雪解けを来るの待てば、必ず春はやってくる。


ーーー人の心とは違って。




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