名前を教えてあげる。


今まで開けなかったパンドラの箱を今、開け放つ決意をした。



「一旦帰るのは仕方ないよ……
じゃあね。これは、とっておきの話」


美緒は恵理奈にくっついて、布団の上に横になった。2人で掛け布団に包まって、内緒話をするように。


「なんの話?」

ふちを赤く染めた目で、母親の美緒を見上げる。


「うん…恵理奈のパパの話」

「えっ、パパ?」

「恵理奈がもう少し大きくなったら、話そうと思ってたけど、今、話すことにしたよ」


美緒はにこっと笑った。


美緒は愛娘のしなやかな髪の頭に頬を寄せて、語りかけた。


「…パパの名前を教えてあげる」


美緒の言葉に、恵理奈はこくりと頷いた。美緒は布団の中でうつ伏せになった恵理奈の頼りない背中を撫でなから、言葉を繋いだ。


「恵理奈のパパはね、『中里順』っていう名前なんだよ。
年は、25歳。学年はママと同じなんだけど、パパは8月生まれだから。

…知り合ったきっかけはね、ママがアルバイトしていたスーパーマーケットにパパもアルバイトで入ってきたから。
本当は、パパに一目惚れしてたんだ。
でも、絶対無理って思ってたから、気持ちをずっと隠してたの。片想いしてたの。

だから、パパから好きだって告白してくれて、付き合うことになった時は信じられなかった、夢みたいだった。



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