名前を教えてあげる。
脚、腕、頭。
日中、我慢していた痛みが今になって、堪えきれなくなったのかもしれない。
「ママ…大丈夫…どこも痛くない……
おじいちゃんと由美ちゃんと加奈ちゃんとおばちゃん達とバイバイするのが、悲しいの…」
えっえっ、としゃくりあげながら、手の甲で涙を拭いながら恵理奈は嗚咽を初めた。
「帰りたくないよ…私、ここが大好きになっちゃったんだもん…」
くすんくすんと鼻を啜る恵理奈に、美緒は切なくなる。
赤いりんごみたいな頬っぺたに、ちゅっと口付けをして、慰めの言葉を探した。
「淋しくないよ。また春休みになったらまた来よう」
「嫌だ…春休みってずっとずっと先だもん…」
恵理奈がこんなに愚図愚図いうのは初めてだ。髪を撫でてやった。
ここが気に入ったのは、美緒も同じだ。でも、横須賀には婚約者の光太郎が美緒の帰りを待っている。
光太郎と恵理奈の関係に頭を悩ます日々は、美緒にもストレスだった。
結果、見て見ぬふりをする。
それが、6歳の子供にとって良くない環境であるということは、美緒にも分かる。
(恵理奈に必要なのは、光太郎じゃなくて本当のお父さんの面影なのかもしれないな…)
美緒は静かに目を瞑り、拳を握りしめた。