思い出の守り人

「でもまぁいいか」

 冬馬はにんまりと笑って紅夜と優希を見る。
 敵対関係である相手に焦る様子もない彼に紅夜が訝しむ。
 ――理由はすぐに判明した。

「薫さん!」

 奏太と春陽が叫び声をあげて名を呼ぶ。

(東雲さんが挟まれてる!)

 結界と盾を構える薫を挟む形で治臣と凜子が移動していた。
 紅夜がしまったと舌を鳴らし、刀を構えて飛び上がる。

「行かせませんよぉ!」

「――くそ……っ」

 冬馬がフレイルを振り回して進路を阻む。
 奏太が持つ弓矢ならば遠距離から援護が可能だが紅夜は刀一つ、投げはなってどうにかなる物ではない。
 しかも、援護しようと奏太が矢をはなつものの、凜子のリボンが綺麗に叩き落とし敵方への攻撃にいたらない。
 武器化が盾の薫は味方の援護が届かない今、防戦一方。
 ――ついに治臣は二本の刀を使いこなし、薫の背中を結界の壁につけることに成功した。

「彼が彼女の所に行ってくれて助かりました。――さあ、命が惜しければ退いて下さい」

「それは無理な話だ」

 余裕のある笑みで距離を縮める治臣に眉を寄せて拒絶を示す。
 その答えに治臣は表情を崩し、脇差しを薫の首筋にあてた。

「――何故……? 何故命をかけてまで他人の思い出を守ろうとする……!」

「……っ!」

 薫は首筋に痛みが走っても目をそらさず相手を見続ける。
 丁寧さが抜け、声を荒げながらも、眼鏡の奥の瞳が泣き出しそうに歪んでいることに気づいたからだった。

「――だったら、そっちは何で命をかけて他人の思い出を閉じこめるんだ? お互い分かってるだろ?」

 薫の大きな声が優希を含む全員の耳へと届く。
 優希は紅夜と冬馬が悲痛な表情を浮かべていることに気づいた。

(二人ともすごく苦しそう……)

 しかし、キューブが覚醒していない優希には何も出来ない。
 それが歯がゆくてポケットに入れているキューブを服の上からつかんだ――その時だった。

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