思い出の守り人





 紅夜と寮の前で別れ、優希は一人で家路を歩く。
 雨が強く降り始めたため紅夜は家まで送ろうとしたが、事務所から急ぎの仕事が入り申し訳なさそうに見送った。
 お気に入りの折りたたみ傘をさし、優希は人の中を歩いて行く。

(何だろう……? 大きな声がいくつも聞こえるような……)

 家に帰る途中にある大きな交差点に近づくと喧騒が聞こえ、気になる気持ちのままで近づいて行く。
 交差点のまわりに人だかりが出来ており、大きな声が飛び交っているようだった。

「子供が飛び出していったみたい」

 傘をさしエコバッグを持ったやや年配の女性が、隣に立って同じように傘をさした年の近い女性に話す。

「まだ若そうね……可哀相に……」

 その二人のそばに立ち止まった優希は前方に目をやり、一瞬呼吸を止めた。
 交差点には倒れてぐったりとした年若い女性が赤に濡れ、その体にすがりつく小さな男の子。
 近くには乗用車と救急車が停まっていて、呆然と立ちつくす中年男性、救急隊員が処置をしようと動いている。

(あれ……? お母さんが事故に遭った場所って……)

 どこだっけ、と考える優希の横で二人の女性は会話を続けている。

「ここって事故が起こりやすいのかしら……」

「だいぶ前にも子供をかばった母親が亡くなっているしねぇ……」

 ――え。
 優希は掠れた声を出して横の女性達に目を向ける。
 視線を感じたすぐ横の女性が眉を下げた表情で口を動かす。

「あなたは若いから知らないわよね? 十年位前にも同じような事故があったのよ。その時は血が出ていなくてまるで眠っているみたいだったわ」

「その時助かったのはたしか女の子だったね。泣きながら救急隊員に頑張るって言っていたわ」

「――! その親子の人達は傘を持っていませんでしたか……!」

 優希は胸がざわついて噛みつくように問う。
 優希の勢いに二人は目を丸くした後、優希がさしている傘に視線を向けた。

「そうそう。ちょうどあなたがさしているような色だったわ」

「大きさが違うお揃いの傘をさしていたから記憶に残っているのよ」

 あの子はどうしているかしらね、とまだ会話を続けていたが優希の耳には届かない。

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