恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


「だって、言ったら怒るから! それに私ももう社会人だしそれくらい我慢できなきゃダメでしょ!」
「そんなもん我慢する必要なんかねーだろ! おじさんに言いつけろよ」
「じゃあ今度されたらちゃんと言うから。
それより、由宇の話――」

話題がマズイ方向に進んでいるのが分かって無理やりに方向転換を図ろうとした瞬間、腕を引かれたと思ったらそのまま由宇の胸に抱き寄せられた。

ぶつかるように触れた私の頬と由宇の胸。
急に抱き寄せられたせいで、お風呂のお湯が上下している。

「ちょっと! お風呂ではやめてって……」
「しねーよ。ただこうしてるだけ」

そう言ってぎゅっと抱き締める腕に力を込めた由宇は、やっぱり、少しおかしい気がする。

普段から由宇はくっつきたがるから、こうして抱き締められる事も多いけど……でも、なにか違和感というか直感みたいなものを感じずにはいられない。

ナニかがおかしい。
10年以上一緒に過ごしてきた時間が、そう教えていた。



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