恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
守られっぱなしじゃ嫌だって思うのに、結局私の知らないところで由宇にはたくさん助けられっぱなしで。
由宇にしたら今回のケンカだって、どうせ私のわがままにしか思われないんだろうし、もしかしたら本当にその通りなのかもしれないなと自嘲しながらコンビニでチョコを二箱買った。
そして家まであと一分ってくらいになった時、後ろからつけてきている足音に気づいて振り返る。
コンビニを出て少ししたくらいからずっと一緒だなくらいには思ってたけど、さすがに気味が悪くなってきてどんな人か確かめたかったから。
得体が知れないと怖いけど、相手がはっきり見えればそこまで怖くない。
今の場合、普通だったら立ち止まらず走り出す人の方が多いのかもしれないけれど、昔からその辺の感覚が人とずれてるって言われてきたから仕方ない。
痴漢か?と頭をよぎった次の瞬間には考える間もなく身体が勝手に振り返っていた。
振り向いた2メートルほど先にいたのは、ロングコートをきた男の人だった。
四月にロングコートを着ている時点でもう痴漢で露出狂だなと確信して、襲ってくるタイプの不審者じゃない事に少し安心する。
そして、こんな分かりやすい痴漢が本当にいるもんなんだなと呑気に感心してしまった。
学生の頃、お父さんにこんな人には注意するんだよって挙げられた項目をまとめて擬人化した感じだ。
マスクで顔を隠してるし、服装は季節にそぐわないロングコートだし、見る限り呼吸も荒い。
昨日出た痴漢もこの人だろうかと考えていると、痴漢が話し出す。
「この服の下、見せてあげようか……?」
「見たくないって言っても見せるんでしょう?」
聞き返すと、痴漢はまさか返事が返ってくると思ってなかったのか戸惑っているようだった。