恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


お父さんの名前を出された途端、玄関先で涙ぐんでいた顔がぱっと脳裏に浮かんで、すぐに言い返せなくなった。
それどころか、なぜか私まで涙が浮かんできてしまって……ぐっと俯く。

それに気づいた由宇は、しばらく黙った後、後ろ頭をかいて「悪い、言い過ぎた」とぽつりと言った。
ケンカをする事はあっても、そのせいで泣きだしたりする事はあまりなかったから、由宇も泣く私を前にどうしていいのか分からないのかもしれない。

「あんな事になると思わなかったんだもん……。
痴漢に裸見せられるくらい、由宇の見てて慣れっこだし大丈夫だとも思ったし」
「……男全部を一括りにすんな。俺とあの痴漢は絶対同じじゃねー。
本当おまえはその辺ズレてるよな。
恋愛とかそういう方面の経験値が極端に少ねー……つーかないから仕方ないのかもしれないけど」
「恋愛の経験値って、だってそれはいつも由宇がいたからだしっ……それにそんなの由宇だって同じじゃない!
私しか知らないくせに偉そうに言わないで」
「俺は実際の経験はおまえだけだとしても、勉強はしたから知識はあるし」
「なにそれ、だったら私も勉強する。由宇に負けてるみたいでヤダ」
「いいんだよ。そういうのは男だけ勉強すれば。
つーか、あんな危ない目にまで遭ってコンビニで何買ったんだよ。急ぎだって聞いたけど」

もう嫌だ。
これで買いにいったものがチョコだなんて言ったら激怒されるに決まってる。

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