グッバイ・メロディー
そんな彼はもう睡魔が限界らしく、そのままベッドに強制連行された。
例のごとく有無を言わせない強引さ。
だけど抵抗する隙がないわけじゃない。
単にわたしが、そうしないだけ。
「ねえ、こうちゃん」
呼吸のリズムで小さく膨らんだりしぼんだりする胸に頬をくっつけていると、「ん」という音といっしょにかすかな振動が伝わってきた。
「アキくんとヒロくんとトシくんはチョコが苦手じゃないかな?」
「さあ。嫌いとは聞いたことないけど」
「じゃあバレンタインはチョコで問題ないね。ちょっと遅くなっちゃうけど」
「あげるの?」
「あげない理由がいっこもないよ」
ふうん、と半分寝ているような声が相槌をうつ。
こうちゃんは少しだけ身をよじると、さっきよりもほんのり強い圧力でわたしをぎゅっとして、耳元に顔を寄せながら「手作りじゃなくていい」とどこかすねたように言う。
3人の分はもちろん買う気だったから笑ってしまった。
おかしな心配をしなくても、わたしがガトーショコラを焼くのはこうちゃん専門なのに。
「ね、そういえば2月の対バンは出るの? それとも見送る?」
「出るよ」
「え! でもその期間に6曲作らないといけないんでしょ?」
「どっちもやるからいいよ」
とんでもないことをなんでもないことのように言うの。
さっきの「忙しくなる」という言葉、いまやっと本当の意味で理解できた気がする。
「大丈夫?」
よけいなおせっかいだとはわかっていても思わず聞いてしまう。
こうちゃんは考えるそぶりさえなく、ウンと簡単につぶやいた。
「季沙がずっとここにいてくれるなら」
ぎゅっと、心臓が痛くなる。