グッバイ・メロディー


レコーディングとかミキシングとかジャケット製作とか、いろんな人が携わってやっと完成するCDを作るために、どうしてもコッチでできることには限界があるらしい。

なんだかまるっきり別世界の話に思えて、ぴんとこないし、へーとかほーとかまぬけな相槌ばかりが生まれてしまったよ。


それも交通費も宿泊費も食費も出るというのだから驚き!

“経費”から降りると言われたときは、なんかお仕事みたいだなあ、とぼんやり思ったけど、そうか、たぶんこれは本当にお仕事なのだとすぐに思い直したら、全部がしっくりきた。


「かっこいいねえ」


こうちゃんはなにも答えず、ただぎゅっとわたしの肩に顔をうずめるだけ。

髪が首にもぞもぞ触れてくすぐったい。


「ね、お土産買ってきてほしいな」


押し黙っていた幼なじみはやっとゆっくり顔を持ち上げた。


「なに?」

「バナナのやつ! 東京駅に限定のバウムクーヘンがあるんだって。知ってる?」

「知らない」


甘党のくせにまだまだだな。


そう笑っていたら、こうちゃんが本当にしゅんとしてしまったので焦った。

慌ててくっつけたゴメンには、すねた感じのヤダが返ってくる。


これは甘えんぼうスイッチが完全にオンだ。

それも赤い点滅の超緊急モード。


最近ぜんぜん、ちゃんと休めていなかったもんね。

それにこうちゃんはもともと体力があるほうではないの。

水泳とか持久走とか、疲れるような体育の授業をいつもてきとうに理由つけてサボっているのは、ちゃんと知っている。

< 115 / 484 >

この作品をシェア

pagetop