グッバイ・メロディー
もちろん清枝ちゃんの計画なんてぜんぜん知らなかったし、わたしとしては本当にそんなつもりじゃなかったのだけど。
だけど、もしあのころから計画していたのだとしたら、こうちゃんの段取りの上手さって完全に清枝ちゃんのDNAだ。
「お父さんのギター、ずっと大事にしてくれてありがとうね。お母さんからのギターも大事にしてくれたら嬉しいなあ」
ずっと欲しくて、何度も試奏しに行って、だけどいますぐにはとてもじゃないけれど手の出せない値段だったその子を、こうちゃんの両手がとても慎重に受け取った。
「ありがとう」
さっきと同じ響き、でもそれを口にするのでもう精いっぱいという感じに、こうちゃんは一音ずつを確かめるように紡いでいく。
「どういたしまして。きっとこれからいろんなことがあると思うけど、自分で決めたからには頑張るんだよ。壁にぶち当たって男は大きくなるんだから、泣くんじゃないよ」
「泣かない」
「そうだねえ、洸介もそろそろきっちゃんをバシッと守れるくらいの男にならないとね!」
背の高いこうちゃんの頭をひと撫でした清枝ちゃんは、わたしたちに「じゃあゆっくりしていってね」とにっこり笑って言い残し、シャワーを浴びに行ってしまった。
まだ放心状態なのか、その場に立ち尽くすこうちゃんの広い背中に思わず手を伸ばし、ぎゅっと抱きしめる。
でもやっぱりわたしより何倍も大きいから抱きつく感じになってしまう。
「こうちゃん、すごいね。びっくりしちゃった。大事にしないとね」
少し上のほうにある頭が縦に一回、小さく動いた。