グッバイ・メロディー


「いただきます」


律儀に胸の前で手を合わせ、ぺこりと頭を下げながらそう言ってくれる瞬間が、なにより好きだな。

「ごちそうさま」も同じだ。


ひとくち目はこうちゃんが食べるのを待ってから、わたしもいただく。

おいしいの一言だけでこんなにも幸せな気持ちになれるから、作っているわたしのほうがいい思いをしちゃっているなって、いつも思うよ。


「トシを呼び戻すことにした」


オムライスは左端から攻める派のこうちゃんが、半分くらい食べ終えたあたりでなんの脈絡もなくそう言った。


「えっ?」

「たぶんいろんな人の手助けがいると思う。もしかしたら季沙にも、手を貸してもらうときがあるかも」


それがいったいどんな場面になるのか、無力すぎるわたしにはぴんとこないけど、そんなことはいまはどうだっていいの。

とにかくひたすら頭を縦にぶおんぶおん振りまくるわたしを見て、こうちゃんが少し笑った。


「ありがとう」


そんなふうに言ってもらえるほど、わたしなんかはなにもできていないんだよ。


「おいしい」


話が唐突すぎて今度はわたしのほうが笑ってしまった。


「オムライス?」

「うん、オムライスも、全部」

「ぜんぶ?」

「はじめて作ってくれた苺のフルーシェから、これまでの全部」


牛乳を入れてかき混ぜ、冷蔵庫で冷やしたら出来上がりのお手軽デザート・フルーシェ。

小さいころはよくお母さんといっしょに作っていたなあ、と思い出す。


みるみるうちに固まっていく過程がおもしろくて、食べるより作るほうが、わたしは好きだったな。

たくさん作りすぎたのをこうちゃんちにおすそ分けしたこと、たしかにあったかもしれないけど、あれって幼稚園のときじゃなかった?

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