グッバイ・メロディー
それはどれくらいの覚悟が必要なことなんだろう。
ためしに自分のお父さんとお母さんの顔を思い浮かべたら、胸の奥がぎゅうっと苦しくなった。
わたしにはとうていできっこない決断だと思った。
たぶん、一生かかってもできないことだよ。
「大丈夫、行くアテはあるんだ」
トシくんはすでに決めていることがあるみたいに言ったけど、ぜんぜん、まったく、想像もつかない。
ほとんど収入のない高校生の男の子が、両手に抱えられるほどの荷物だけで、不自由なく生活していける場所なんて本当にあるの?
「季沙、安心しろ。トシにはかくまってくれる女のひとりやふたりや3人や4人くらいいるから」
「そうなの!?」
「そんなわけないだろ。アキはなんでこう、いつもビミョーに信憑性の出ちゃうようなてきとうなことばっかり言うんだよ」
「ウソなの!?」
「嘘に決まってるよ。何者なんだよ、俺は」
だってトシくんならそういう女の子のひとりやふたりや3人や4人くらいいそうだって、妄想してみたらしっくりきたよ。
きれいなOLさん、おしゃれな女子大生、暇を持て余した人妻、経験豊富なマダム。
そういえばトシくんは年上のお姉さんからすごくモテそうだなって勝手に思った。
「なあ、たしか最初に誘われたときも、こんなふうになかなか強引だったよな」
まだほんの1年くらい前のこと。
だけど遠い昔を思い起こすような目をして、トシくんがこうちゃんを見た。