グッバイ・メロディー
「がんばってね」
ふと、はなちゃんがアキくんの胸をぽすんと叩いた。
つきあっていたあのころより、ふたりの身長差が大きくなっていることに、時の流れを感じる。
「おー。ありがと。花奈実に言われるとなんか、こう、ガツンとくるな?」
「わたしはキビシー女だからね」
「わはは! そうだな、でもめちゃくちゃいいやつ」
「いいやつってぜんぜん嬉しくないんですけど」
わたしとこうちゃんがいっしょに帰るであろうことを予測して、ひとりで帰るのかと、アキくんが訊ねた。
そうして、送っていこうかと自然と続いた言葉に、はなちゃんがあきれた感じに笑う。
「変わんないねー。そうやっていろんなコ、かるーい感じで勘違いさせてくのいいかげんやめなよ? 顔だけは文句のつけようがないほど良いんだから」
彼氏が迎えに来るから大丈夫だと、はなちゃんは軽快に言った。
車持ちの大学生の彼氏さんが近くまで来てくれるんだって。
そのことは事前に聞いていたけど、改めてその響きのかっこよさにどきどきしちゃう。
アキくんがうなずいた。
じゃーよかった、と本当に安心したように言うの。
なんとなく、ふたりがつきあっていたころのことを思い出した。
そういえばすごく不思議なふたりだったな。
ものすごくラブラブって感じでもなくて。
なにがきっかけでどうやってつきあい始めたのかも、実はよく知らなくて。
お別れの理由もそうだ。
なんとも不思議な距離感は昔から。
恋人としてお別れしてしまっても、こんなふうにいつまでも変わらずにいられるのは、アキくんとはなちゃんだからこそな気がする。
「というわけで、わたしはひと足先に帰るね。瀬名くんも、寛人くんも、皆川先輩も、きょうは本当にお疲れさまでした。陰ながらずっと応援してます!」
彼から連絡がきたスマホを揺らしたはなちゃんが、名前のとおり花のように笑った。
うしろ姿まで完璧に美人で、もう何年も友達のくせにぽけっと見とれていると、こうちゃんがこつんとおでこをわたしの頭にぶつけてきた。