グッバイ・メロディー


「がんばってね」


ふと、はなちゃんがアキくんの胸をぽすんと叩いた。

つきあっていたあのころより、ふたりの身長差が大きくなっていることに、時の流れを感じる。


「おー。ありがと。花奈実に言われるとなんか、こう、ガツンとくるな?」

「わたしはキビシー女だからね」

「わはは! そうだな、でもめちゃくちゃいいやつ」

「いいやつってぜんぜん嬉しくないんですけど」


わたしとこうちゃんがいっしょに帰るであろうことを予測して、ひとりで帰るのかと、アキくんが訊ねた。

そうして、送っていこうかと自然と続いた言葉に、はなちゃんがあきれた感じに笑う。


「変わんないねー。そうやっていろんなコ、かるーい感じで勘違いさせてくのいいかげんやめなよ? 顔だけは文句のつけようがないほど良いんだから」


彼氏が迎えに来るから大丈夫だと、はなちゃんは軽快に言った。

車持ちの大学生の彼氏さんが近くまで来てくれるんだって。

そのことは事前に聞いていたけど、改めてその響きのかっこよさにどきどきしちゃう。


アキくんがうなずいた。

じゃーよかった、と本当に安心したように言うの。


なんとなく、ふたりがつきあっていたころのことを思い出した。


そういえばすごく不思議なふたりだったな。

ものすごくラブラブって感じでもなくて。

なにがきっかけでどうやってつきあい始めたのかも、実はよく知らなくて。

お別れの理由もそうだ。


なんとも不思議な距離感は昔から。

恋人としてお別れしてしまっても、こんなふうにいつまでも変わらずにいられるのは、アキくんとはなちゃんだからこそな気がする。


「というわけで、わたしはひと足先に帰るね。瀬名くんも、寛人くんも、皆川先輩も、きょうは本当にお疲れさまでした。陰ながらずっと応援してます!」


彼から連絡がきたスマホを揺らしたはなちゃんが、名前のとおり花のように笑った。

うしろ姿まで完璧に美人で、もう何年も友達のくせにぽけっと見とれていると、こうちゃんがこつんとおでこをわたしの頭にぶつけてきた。

< 201 / 484 >

この作品をシェア

pagetop