グッバイ・メロディー
こうちゃんがそっとヒロくんから離れ、わたしの隣にやって来た。
疲れきった顔。
もう自分の出る幕はないという表情だな。
「帰ろっか」
トシくんが申し訳なさそうにありがとうとつぶやいた。
そしてもういちど「ごめんな」、
こうちゃんには「お疲れ」。
こうちゃんが本当の本当にもうやだってふうに小さくうなずく。
ちょうど、そのとき。
「遅くなってごめーん」
明るくて軽くてどこかハスキーな声が、背後からびゅんと飛んできた。
みちるちゃんだ!
「おせえよ。もう終わったぞ」
カウンターのむこうにいた脇坂さんが煙草をくわえたままこちらにやって来る。
どうやら彼女を呼び寄せたのは、ここのオーナーさんらしかった。
「仕事だったんだからしょうがないじゃん。大丈夫なの? なんかまだお葬式みたいな空気だけど」
「とりあえずかなり弱ってるから連れて帰ってやれよ。おまえんとこのガキだろ?」
脇坂さんが顎をしゃくってアキくんを差すと、みちるちゃんはなんともいえない、にがいような、めんどくさいような顔で笑った。
おまえんとこのガキ、とは。
そして、否定しない、ということは。
「彰人、帰るよ」
お仕事帰りだからか、めずらしくひとつのリングもついていないシンプルな指先が、アキくんの制服の袖を引っぱった。
そのまま、こてん、と華奢な肩に落ちていった金色の髪。
それをよしよしと撫でる優しい手のひら。
まるで恋人に甘えるかのように首筋にうずめられた頭に戸惑っていると、それ越しにお姉さんと目が合い、また今度ね、と赤いくちびるがサイレントで動いたのだった。