グッバイ・メロディー
「アキくーん!」
1曲目が終わるなり、双子コーデのどちらかが叫んだ。
気づいたアキくんが視線を落として笑う。
アリガトって、くちびるが動く。
天性の人たらしなフロントマンはお客さんの顔も絶対に忘れないらしい。
間髪入れずに2曲目が始まった。
イントロのベースを聴いたとたん、衣美梨ちゃんがこらえきれずぽろぽろと涙を流した。
思わずもらい泣きしてしまう。
ふたりでぎゅっと腕を組んだまま、モッシュに負けないように踏ん張った。
野外フェス、と呼ばれているイベントに来たのははじめてだけど、わたしの知っている“ライブ”とはぜんぜん違うんだな。
大きなスピーカーから生まれた音が、空に飛んでいくの。
まるで吸いこまれるみたいに、宇宙にそのまま届いていくように。
だけど違うのはそれだけじゃない。
本当に、見たこともないような大きなステージなんだよ。
手を伸ばしても届く気配すらないほどに。
ステージ上の4人の距離も、いつもよりうんと間隔が広い。
うっかり真ん中を陣取ってしまったから、上手にいるこうちゃんが、きょうは遥か彼方の銀河系にいるみたいに遠い。
言葉が出ない、というのはこういうことなんだと思った。
なんにも言えなかった。
こうちゃんの名前、いつもライブのときは1回くらいは呼んじゃうのに、きょうはダメだった。
名前を知らないおかしな涙だけが、自分の意思とは関係なく、頬を伝ってぼとぼと落ちていくだけだ。