グッバイ・メロディー


「アキくんからなんにも聞いてないの?」


地下鉄に揺られながらブスっと訊ねたわたしに、こうちゃんはうなずいた。


「でも、おかしいって思うことはたまにあった」

「おかしいって?」

「うまく言えないけど……なんか、元気すぎる感じがした」


見慣れた横顔がほんの少し苦い表情に変わる。


「もしかしたらわざとそう振る舞ってたのかも」


基本的に笑っていて、時に怒ることはあっても、落ちこんでいるアキくんってそういえば見たことがない。

悩んだり、迷ったり、そういう話を耳にしたこともない。


それは彼にとっての大親友も同じなようで、さっきは冷たい言葉を放ったくせに、こうちゃんは家に帰るまでずっと考えこむような顔をし続けていた。

こうちゃんが誰より優しくて、実はアキくんのことをとても大好きなのは、わたしがいちばんよく知っているんだった。


今朝届いたみちるちゃんからのメッセージを開いてみる。


『ハッピーバースデー! 最高の17歳にするんだよ。洸介くんと仲良くね。』


もし手を離したのがみちるちゃんのほうだとしたら、それは鍵穴の形をした傷痕となにか関係があるのかな。

それともぜんぜん関係のない、アキくんとみちるちゃん、ふたりだけの問題だったのかな。


後者のほうがずっといいよ。


だってふたりは、ふたりだけで恋をしていたんでしょう?

ふたりの恋の始まりには、ほかの誰の存在もなかったでしょう?




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