グッバイ・メロディー
⋆°。♬


真っ黒い波のいちばんうしろに、ふたり並んで座った。

袈裟を身にまとった和尚さんが一定のトーンでお経を唱えるのを、こうちゃんの肩に寄り添いながらじっと聴いている。


いつのまにかうんと背が伸びたこうちゃんの横顔、あの日よりもずっと高い位置にあって、時の流れを感じさせられてしまう。

ちょっと大人びたのは確かなのに、その表情はどこか切ない色のままで、またあの不安が胸の真ん中に生まれてしまった。


ふいに目が合う。
優しい瞳が「どうしたの」と言っている。

ふるふるとかぶりを振った。


……触っても、いいかな。


すぐ傍にある左腕に手を伸ばしてみた。

指先で触れてもなにも言わないから、二の腕をぎゅっと抱きしめて、広い肩に頭をちょんと乗せた。


自分のじゃない鼓動のリズムがかすかに伝わってくる。

体温が少しずつ流れこんでくる。


全部、こうちゃんがここにいる証。


「大丈夫」


わたしの額に口元を寄せ、こうちゃんは本当に小さな声でささやいた。

思わず泣きそうになった。

だって、こうちゃんの左手がなにかを探したかと思うと、すぐにわたしの右手を見つけて、そのまま指先がつながったから。


大丈夫って言ったくせに。

でも、大丈夫じゃなくてもいいんだよ。


伝わってほしくてぎゅっと握り返す。


ずっとギターが恋人のこうちゃんの指先、すごく硬いのに、本当に優しい手ざわりをしていて、我慢できずにじんわり涙がこみ上げた。

< 28 / 484 >

この作品をシェア

pagetop