グッバイ・メロディー


ほんとにもう終わった昔話なんだ、

と前置きされた。


「高校をね、1年の秋に退学したの。なんだかどうにも肌に合わないなーと思ってね。だけど勝手に学校を辞めて帰ってきた娘のこと、ウチの両親って気にしい(、、、、)だから許せなかったんだよねえ。もう二度と顔を見せるな、って追い出されちゃって」


16歳だった少女は反抗もせず、素直に家を出ることにしたのだという。


なにも持っていなかったから生きていくためにいろんなことをした、と彼女は語った。

とてもいまは口にできないようなこともね、と。


「そんなあたしを拾ってくれたのが、まだぺーぺーのバンドマンだった、脇坂真二」


――捨て猫みてえだな、ウチで飼ってやろうか?


薄暗い路地裏でうずくまるしかなかったぼろぼろの体の上に、そんな言葉が、でかい図体のてっぺんから落っこちてきたんだって。


「いっしょに生活するうちに、男と女だからね、なんとなく“そういう関係”にはなるわけよ。成りゆきだったけど、つきあってる、みたいなさ。いま考えればすごくいびつだったと思うけどね。それでもあたしはたぶん、真二にとても恋をしてた」


かつての恋人のことを、あまりにも自然に、名前で呼んだ。


きっと、ずっと、そう呼んできたんだ。

たぶんいまも、ふたりきりのときには、こう呼んでいるんだ。


とても、そういう響きだった。

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