グッバイ・メロディー
それなのにこうちゃんといえば、いつものポーカーフェイスのまま、ずっとギー子さんをいじってばかり。
こんなにスゴイことが起こっているというのにその冷静さ、どうしちゃったの。逆にコワイよ。
「ねー、なんでそんなにフツウなの。もしかして関谷マコトって知らないの?」
わたしにさらに輪をかけて流行には疎いこうちゃん。
まさかと思って訊ねると、ちょっとムッとしたような顔を向けられた。
そりゃそうだ。
こうちゃんって音楽業界に限ってはわたしよりずっと詳しいもんね。
「知ってる。昔、ワキさんといっしょにバンド組んでたらしいし」
「えっ、そうなの?」
「知らなかった?」
ぜんぜん知らない。
びっくりした。
やっぱり、脇坂さんはただ者じゃなかったんだ。
こんな大物アーティストとバンドを組んでいたことがあるなんて、そりゃちょっとした伝説にもなるはずだよ。
こうちゃんはおもむろにギターをスタンドに立たせ、わたしの手からスマホを優しく奪うと、いまだに脈々と拡散され続けている自分たちの動画に視線を落とした。
「たぶんワキさんが撮って、関谷マコトに送ったんじゃない」
「ええっ。なぜ!?」
「さあ」
それはわかんないけど、
と、またも興味なさそうな声。