グッバイ・メロディー
「ねー、こうちゃん見て。たくさんコメントついてるよ」
こうちゃんはギターをいつもそうするようにわたしを後ろから抱えこむと、肩越しにスマホを覗きこんできた。
ふわふわの髪の毛が頬に触れてくすぐったい。
ん、という低めの声が近くて、それもまたくすぐったい。
「『ボーカルの人かっこいー!』だって。アキくんってすごいんだねえ。あ、ねえ、『ベースがエモすぎる』だって! 『ドラム中学生とかマジかよやべえな』、『ギタリストはプロか?』、『ボーカルの歌声ちょっとえろい』、『音源化してないの?』、あとそれから」
「読んでくれなくても全部一緒に見てる」
ちょっとはしゃぎすぎてしまったら、こうちゃんがめずらしく制止するように言った。
でも、違うの。
こうちゃんが見ていないと思って読み上げているわけじゃなくて、あんまりうれしくて、ついつい声に出てしまうんだよ。
「こうちゃん、プロになるの?」
あまりの事態に、思わず、CDを作るんだって言われたときと同じことを訊ねずにいられない。
「なろうと思ってなれるようなもんでもないよ」
あのときとは少しだけ違う返事を、こうちゃんはいたって冷静にくれた。
ひとりではしゃいで舞い上がっているわたしとはぜんぜん違う温度感でちょっと恥ずかしくなった。
だけどそれだけ、こうちゃんは“プロ”という世界を現実的に見ているということだ。
夢の世界だとは思っていないということだ。
そんな気がする。
すごく、どきどきする。
さっきまでとは違う、血液がゆっくり体中をめぐるような、静かなどきどき。
「ねえ、こうちゃん。わたしはね、ほんとにこうちゃんたちがデビューしちゃったら、すごくうれしい」
こうちゃんが小さくうなずいた。
やわらかい髪が首元を優しくなぞっていく。
「わかった」
わかったって、なに?
なにがわかったんだろ。
へんなの。