グッバイ・メロディー


「オレは、やってみたい。……と、思った、率直に」


アキくんなら絶対そう言うと思った!


トシくんも予想的中って感じに、満足げに笑った。

ヒロくんは相変わらずぷいっとしているけど、それでもお兄ちゃんの言葉に小さくうなずいたのを、わたしは見逃さなかったよ。


こうちゃんは、どうかな。


「洸介は?」


わたしが思ったのと同じタイミングでアキくんが聞いてくれた。

こうちゃんがすぐ右側でふっと顔を上げたのが、視界の端に見えた。


「なんで、俺?」

「そりゃ、オレら集めて、このバンド作ったの洸介だし。最終決定権は洸介にあるんじゃねえの?」


なつかしいな。

こうちゃんが「バンドやろうかな」と何気なくつぶやいた春。

もう少しで、あれから1年になるんだね。


実を言うと、最初は嘘だと思ったの。

だって、あのこうちゃんがそんな突拍子もないことを言うなんて、わたしどころか神様ですら夢にも思わなかったはずだよ。


幼稚園のころはお遊戯会の発表が嫌すぎて「おねつでた」と見え見えの仮病を使っていたこうちゃんが、小学生のころは合唱コンクールが嫌すぎてずっとうつむいて口パクを貫いてきたこうちゃんが、中学生のころは学祭の出し物の演劇が嫌すぎて3年間ぜんぶ裏方に回ってきたこうちゃんが、バンドだって!


どうかしちゃったのかと思った。

たぶん本当に、そう訊ねてしまったはずだ。

でもこうちゃんはそういうしょうもない冗談は言わないから、いたってまじめに、いつものポーカーフェイスのまま、どうもしないよって答えたんだ。

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