あなたの恋を描かせて



「よかった…あまり濡れてない」



ほっとした思いでわたしはスケッチブックを見つめる。


行き先を体育館に変えたおかげで、スケッチブックも色鉛筆も無事に守ることができた。


頭は少しだけ濡れたけど。



「でも、どうしよう……」



ここの体育館から部室のある校舎までは少し離れている。


空を見上げると雨は全然弱まる気配がない。



「……仕方ない、か」



わたしは雨がやむまで待つことにした。


ザアザアと降り続ける雨を見る。


なんだかんだで雨は嫌いじゃないんだけどな。


雨上がりの濡れた植物が、日の光を浴びてキラキラしているところとか、純粋に綺麗だなって思える。


今はちょっと困ってるけど……



ぼーっと空を見上げていると、たくさんの話し声が聞こえた。


後ろの方から聞こえたから、多分ここの体育館で部活をしている剣道部の人たち、かな。


ぞろぞろと男の子がたくさん出てきて、普段あまり関わらないわたしは俯いてしまう。



「わ、雨降ってんじゃん」


「まじかー」


「傘持ってねぇよ」



どうするー?と、言っていたけど、そのうちほとんどの人がタオルをかぶって帰っていった。


笑いながら雨の中を走っていく姿を見て、くすりと笑みがこぼれる。



ちょっと青春って感じがする……楽しそう。


いつの間にかその光景にくぎ付けになっていた。


そんな中、一人、濃い群青色の傘をさした人がいた。


天気予報でも雨なんて言ってなかったのに、持ってきているなんて律儀な人だなぁ。


と思いながらなんとなくわたしはその人を見つめた。



剣道部の人たちも帰ってあたりは一気に静かになる。



「今、何時だろう……」



ぽつり、とわたしの言葉が響く。


この状態で結構時間が経っているような気がする。


帰りたくても雨はまだやんでいない。






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