私がいた場所。



新選組が最も活躍したといってもいいくらいである「池田屋事件」。
それは古高が捕えられたその日のうちに起こる。
「動ける隊士が少ねぇな…」
「暑さで体調を崩しているものが多く…」
「私も怪我さえしていなければ向かえたのですが」
「いや、山南さんには留守になる屯所を守ってもらわねぇとな」
本当に悔しそうな山南さんの声に原田さんがそういうと少しだけ笑った。
「長州の者たちがこれまで会合に使っていたのは四国屋と池田屋…これまででは池田屋のほうが頻繁に使用されていましたが、古高が捕えられた今夜もそちらを使用するという可能性は低いでしょう」
「動ける隊士を二手に割っていくか…。四国屋に人数を割いたほうがいいな」
「そうですね。ただもし本命が池田屋だった場合、少数で危険ですが…」
「ならば俺は池田屋に行こう」
危険だと言われた池田屋に手を挙げたのは近藤さんだった。そして、みんなが目を丸くして心配し始める前にもう一人も手を挙げた。
「じゃあ、俺も池田屋に行きます」
「おお!総司が来てくれるのか、それは心強い!」
「近藤さんは俺が守りますよ、土方さんはどうせ四国屋のほうに行くんでしょうし」
沖田さんのいったことはあたっていたようで土方さんはため息をつくとまっすぐに沖田さんを見てまかせた、といった。
「あの、私も池田屋に行きたいんですが…」
「は!?椿っ!?!」
「今の話聞いてたか?」
「はい、それでも行きたいんです」
土方さんをじっと見返すがそれはすぐにそらされてしまった。
「土方さん、」
「わかった…。だが無茶はするなよ?お前が想像している以上に危険なことなんだ」
「っありがとうございます!」
深く頭を下げて私は身体が震えるのをどうにか抑え込んでいた。今の私の頭の中はいろんな感情が渦巻いている。
あの池田屋だ、という興奮、そして自分が死ぬかもしれないという焦り、絶望感、虚無感、それでも負傷した人を助けられるかもしれないという希望。
無意識に荒くなる息を飲み込んでできるだけ静かに土方さんの指示を聞いた。


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