私がいた場所。




古びた布を裂いて三重程にかさねるとふちを縫っていく。もう使わなくなった手拭いを雑巾にして使うためだ。
自分にできること、と考えて真っ先に浮かんだのは掃除だった。屯所全体を綺麗にすれば体調を崩し気味の隊士たちも減るだろう。元々男所帯で衛生環境は最悪だったのだ。それでも少しは綺麗にするように心がけていたが私も隊士として仕事をするようになってからはあまりできていなかった。
それに、諸説あるからわからないが沖田さんの発病は池田屋だったという説がある。あの時血は吐いていないように見えたからそれは違っていたみたいだが、それでも発病が近いことに変わりはないのだろう。だとすればこんな埃のあるところにいさせては咳を誘発してしまう。
「椿ー…って繕いものか?」
「原田さん…はい、久しぶりに」
いくつも縫いすぎて指がつりそうになるのを隠しつつ入ってきた原田さんに返事をする。
原田さんに限らずだけど私の部屋に入ってくるときみんな返事を待たずに入ってくるんだけど、それってどうなんだろう…。着替え中だったらどうしてくれるんですか、ほんと。
「あァ、そっか。お前ここんとこ隊務づけだったもんなァ」
「はい、私のことを使っていただけるのはうれしいんですが雑用のほうが追い付かなくて」
「ま、無理はすんなよ」
はい、と頷くと原田さんが顔を覗き込んできてじっと見つめられる。…近い。なんだろう。
「…なんですか?」
「いや…思ったより元気そうだなって」
一瞬ぽかんとなってすぐに池田屋のことか、と解釈する。
原田さんは覗き込むのをやめてどかっと座りこむと頭の後ろをがしがしとかいた。
「ちょっと心配してたんだよ。お前、斬るの初めてだっただろ?」
「…はい」
そう、あの時私は初めて人を斬った。殺した。
錯覚でしかないとわかっていても自分の手が赤く汚れてしまったように見える。
本当はこわい。こわくて仕方ない。
私が殺したあの人達は私を恨んでいるだろうか。次は私が殺されるのだろうか…。そんなことばかりが頭の中を占領してしまいそうだ。
でも、だからこそ前を向く。平助さんに言われた通り後ろばかり見ていてもなにも変わらない。それどころか自分がおかしくなってしまいそうだから。
前だけを向いて自分にできることをやっていく。



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