私がいた場所。



「椿、起きたか?」
「ん…はい、今のって、大砲でしょうか…」
日の昇り具合からしてまた朝早い時間だろう。
私は遠くから聞こえてきた爆音で目が覚めた。少しだけ重いまぶたを持ち上げるとすぐ近くに原田さんの顔があってびくっとなった。
「どうした?」
「いえ…すみません。ずっと肩をかりてしまっていたようで、」
そうか、そういえば原田さんにもたれかかって寝たんだった。通りで近くから声が聞こえると感じたわけだ。
気にすんな、と笑ってくれた原田さんにお礼を述べてから足元に置いていた刀を腰に下げた。ぐるりとまわりを見渡すと他の隊士たちも出発の準備をしているようだった。
「お!椿、起きたのか」
「永倉さん、おはようございます。あの、みなさん出発の準備をしているようですが、もう指示がでたんですか?」
「いや、でていない」
私の問いに答えたのは斎藤さんで彼ももう腰に刀を下げていた。誰もが左に刀を下げるようなおしている人もいる中、斎藤さんだけは自分の利き手を優先して右差しにしている。そうしたまわりに流されない心の強さを前からうらやましく感じていたりする。
「出ていないのに勝手に行動してもいいんですか?」
私の頭に浮かんだ疑問は同じように待機を命じられていた予備兵たちにも浮かんだようで、向こうで土方さんと予備兵が話しているのが聞こえてきた。
「お前たちなにをしている!」
「援軍に向かう準備にきまってんだろうが」
「まだ通達が来ておらぬのだぞ!?」
「だからなんだってんだ、てめぇらは上からの指示が無けりゃあ動けねぇのか?戦いの最中に伝達がうまく伝わるとは限らねぇ、戦が始まったとき援軍に行くための待機だろ!!」
おぉっ、とまわりの隊士たちが声を上げると予備兵たちも戸惑いながら刀を手にしていく。
「土方さんすご…」
「ま、俺ら新選組は黙って指示待ってるようなおとなしい奴らでもいい子ちゃんでもねぇってこった!」
やっと戦場に出られるからかいきいきとした表情で永倉さんは土方さんのほうへ足取り軽く向かっていった。
「土方さんには人を動かす力があるっつゥか…近藤さんとは違う何かを持ってるって感じだよなァ」
「副長に人を動かす力があるとするならば局長は人をひきつける力を持っているのだろう」
「お、斎藤うまいな!ま、そーゆーことだから早く土方さん達のところへ行こうぜ!」
人をひきつける力と人を動かす力…その二つがあるから新選組は成り立っているのだろう。

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