私がいた場所。
「あ、そうだそうだ!椿、これやるよ」
「えっ?」
足で水のかけあいをしていた原田さんが懐から出したのは扇子だった。黒を基とした中に赤と金が所々にちりばめてある。
「いいんですか?」
「おう!こないだ巡察行ったときに買ってきたんだ」
「ありがとうございます」
散りばめられた赤と金を指でなぞると原田さんが隣で笑った。
「浅葱色もそうだけど、赤と金も新選組の色だからな!」
「旗の色とかそうですもんね、綺麗です」
原田さんはいつもお土産を買ってきてくれるし、私と話すときはいつも笑ってくれるからすごく話しやすい。貰ってばかりだから、今度お礼に酌でもしにいこうかな。
扇子を懐にしまうと平助さんが手桶をいくつも持ってきてくれてそれには満杯の水。太陽の光が水面に反射してきらきらと輝いている。
水が足されていくにつれ上がってきた水面に、袴を膝までめくりあげて再度冷たくなった水の中で足を揺らした。
「お前さ、もうちょっと…」
「はい?」
「いや、なんでもねぇ…」
水を足してくれていた平助さんがふいっと顔をそらす。耳がほんのり赤いような気がするのは時代の差からだろうか。…にしても膝まで見せるのも駄目なのかな、なんて思ってしまうのだけれど。
杓で水をすくっては脛あたりにかけているとすっと後ろから手が伸びてきて杓を奪われた。
「楽しそうなことしてるね」
「…沖田さん、びっくりしました」
くるくると杓を手の内でまわしながら笑う沖田さんの顔はにっこりというよりにやにやとしている。
杓を持ったまま中庭におりて手桶から水をすくうと私と原田さんにかけた。
「つめてっ!おい、総司!」
「つめたい…っていうかもうべたべたですよ」
「あはは!冷たくて気持ちよかった?」 「うわ、二人ともすげーぬれちゃってんな。椿、大丈夫か?」
「水だから大丈夫ですけど…あー、髪までぬれてる」
原田さんは声をあげたけど足を桶から離す気はないらしい。沖田さんの方に目をやるけれど、いつもの悪戯をした後の楽しそうな笑顔にやられてしまう。悪戯無しでその笑顔ならもっといいのになぁなんて思ってしまったり。
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