私がいた場所。
「さっむい…」
「なんで外に誘ったんだよ」
「いや、なんとなく…?」
はあ、とてに息を吹き掛けてさする。爪先は血色が悪く薄紫色になっている。上着をもってこればよかったと思っているとぐいっと手を引かれて驚いた。
「こっちの手だけだけど」
「…あ、りがとうゴザイマス」
ぎゅっと握られたから照れてしまう。平助さんだってそりゃ土方さんとか原田さんと比べたらまだあどけなさが残ってはいるが美青年の部類に入ると思う。そんな人に手を握られるなんて…色気とまではいかないけど、きゅんときてしまうし頬は熱くなってしまう。
熱いような寒いようなよくわからない状態の中繋いだ手だけは確かに熱くてなんとなく目があわせられない。
「日の光もないから余計寒いな」
「うん」
「…あのさ」
「ん?」
「俺、お前がここにきたときちょっと嬉しかったよ」
「うん」
「俺は幹部の中でも下っ端だったし。だからお前にいろいろ教えてやるのが楽しくてさ」
「なんか死んじゃう前の言葉みたいだよ」
「いいから、とりあえず聞いといてくれって」
「…うん」
視界の隅で平助さんがうつむいたのがわかった。
「なんで新選組にいるんだって思うかもしれねぇけど、俺、本当は人を殺すことなんて嫌だったんだ」
「うん…」
「楯突いたら敵って決めつけて、そしたらなにも聞かずに殺してって…それが仕事なのにどこか隙があってはじめはできなかったんだ。…けど、初めて人を斬ったとき、刀から心の臓を貫いた感触が伝わってきたとき、こんなもんなのかって思った」
まっすぐ前を向いているから平助さんの表情は見えないけど、きっと多分すごく痛そうな顔をしているんだろうと思う。だって私の手を握る平助さんの手にぐっと力が入ったから。




< 64 / 137 >

この作品をシェア

pagetop