私がいた場所。
ごろんと畳に横になった山崎さんを横目に私は筆をとった。
「毎日ごくろうさんやなぁ」
「そう思ってくださってるなら毎日じゃなくていいですって土方さんに伝えてくださいよ」
「どーでもええことは頭んなかに残さん主義や」
へらへらと笑う山崎さんは私の前以外ではきりっとして仕事をてきぱきとこなしていく。多分その方が印象いいし、役を作ってしまう方がやりやすいからだろう。
さらさらとなんでもないことを書いて墨をかわかせる。
私がここにきてから平助さんたちはたまに遊びに来てくれる。土方さんも毎日文を送ってくるのだが特に書くことがないため毎回返事に悩まされる。心配してくれていることはわかるが結局どうでもいいことばかりかいてしまうのだ。
「…じゃあ、お願いします」
「ほい、確かに」
文を届けてくれるのは毎回山崎さんだ。土方さんからの文を届けてくれるのも私の文を屯所まで持っていってくれるのも山崎さん。面倒だと思うから土方さんに伝えてくれればいいのに、と思うがきっと彼も私のことを心配してくれているのだとおもう。ここでの源氏名として「菖蒲」をくれたのも山崎さんだ。姉さんたちが考えてくれているとき彼がぼそっといった「…菖蒲」に即決定。私もすぐに気に入ったし山崎さんもどこか嬉しそうだったからいいだろう。
そういえば、と意地悪そうに笑う顔を思い浮かべた。彼だけは文もここに来ることもない。もう何日見ていないだろうか。
そんなことを考えていると襖越しに声が聞こえた。
「菖蒲はん」
「…へえ、なんどすか」
「楼主さまから…」
「…」
にやにやと笑ったあの顔が頭の中でちらついた。



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