博士と秘書のやさしい恋の始め方
◇秘書は見た!実録・研究者の休日
お、重い……引き出物が重すぎる。

そういえば、引き出物を決めるときにちょっともめたって美緒から聞いたことがあったっけ……。

それはまあそれとして(?)、美緒の結婚披露宴はとても素敵だった。

とくに印象に残ったのは、新里さんの言葉と、美緒の涙だった。

普段は温厚であまり雄々しい感じでない新里さんが「僕が美緒を守ります」と全員のまえで力強く誓ったとき、幸せ色の涙が美緒の頬を伝った。

実をいうと、美緒の涙を見たのは初めてだった。

私たちは互いを信頼していろんな悩みを打ち明けあう仲で、私はよく美緒のまえで思いきり泣かせてもらった。

でも、美緒はどんなときも涙を見せたことはなかった。

どんなに悔しくても悲しくても決して泣いたりしない美緒が流した涙は、とても尊く美しかった。

そして、大切な人に「守ります」と誓ってもらえる彼女が、心から羨ましかった。

私はそんな台詞を言ってもらったことがないし、たぶん思ってもらったこともないから。

「オレがいなくても沙理は大丈夫だろ?」「おまえはひとりでも平気だろうから」と、男の人たちは私のもとを去っていった。

待つ女、尽くす女、都合のいい女……。

正直、今まであまりいい恋愛をしてこなかった。

相手を飽きさせてしまうか、疲れさせてしまうか、そのどちらかでダメになる。

それが私の恋愛パターンだった。

遊佐先生なんて、飽きるもなにも初めから女としての私に興味なんてなかったのだろうし。

ただ単に便利な女というだけで。

私は私なりにいつだって誠実なつもりだった。

相手に対しても、その関係に対しても。

だけど、まるでそれが裏目に出るかのようにうまくいかなくなって……。

恋愛って、どうやってすればいいのだろう? 

相手を飽きさせない工夫とか努力とか、私にはそれが足りないとか? 

重い女にならない為には、ちょっと不真面目くらいでいなきゃとか? 

二十八歳にもなって情けないけれど、考えれば考えるほどわからない。

田中先生が私のことを“特別”だと言ってくれて本当に嬉しかった。

先生が私のことをもっと知りたいと思ってくれていることも。

でも、知られるのが怖くもある。

薄っぺらさとか、底の浅さとか、真面目なだけがとりえで実は特筆すべきことが何もないということを知られるのが怖い。

飽きられるのが怖い。

まだ始まったばかりなのに今からこんなでどうするんだ、と自分でも思う。

昨日の夜は大喜びのおおはしゃぎだったくせに、一晩たっただけでこれだもの……。

なんというネガティブ思考だろう。

これは重いわ……と、心の中でひとりごちながら、私は引き出物を反対の手に持ち替えた。


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