博士と秘書のやさしい恋の始め方
俺の両親は互いを裏切り、互いを憎み合って離婚した。

俺が小学一年生のときだ。

様々な事情を経て、俺はここB市に暮らす父方の祖父母にひきとられるかたちで育てられた。

社会人になった今でこそ、当時の両親が抱えていたであろう問題を少しは察することができる。

男と女には理屈ではどうにもならない色々なことがあるのだろうと。

しかしながら、子どもの俺にはそんなことはわからなかったし。

それはやはり残酷すぎた……。

「おまえが大変だったのはよく知ってるつもりだよ。でもさ、それを言い訳にするのはもうよしなよ」

「言い訳になんて、してるつもりは……」

またもや、ないとは言い切れなかった……。

あぁ、こうなってくるともう本当に周には敵わない。

なにせあいつは俺の生い立ちを知っている。

B市の学校へ転校してきて、初めてできた友達が周だった。

それ以来ずっと、辛いときや淋しいときに当たり前のように寄り添い支えてくれたのが周の家族だった。

痛い弱みを握られている俺にとって、周は恐るべし幼馴染であり、そして――感謝すべき親友だ。

「靖明にとっては転機なんじゃない? その秘書さん、おまえと縁があるんだよ」

「縁?」

「そう。おまえはその人とこのまま終わってしまいたくないんだよね? あ、まだ始まってもいないのか。これは失敬」

「おまえ、わざと言ってるな」

こうやってさりげなく人を小馬鹿にするのが、こいつの得意技だからな。

「まあまあ。でさ、靖明は行動しなきゃと思っているわけだよね? 臆病者のおまえが果敢にも向かっていこうとしているわけだ」

「臆病者は余計だろ」

まあ、実際は否定できないのだが……。
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