不機嫌な彼のカミナリ注意報
 なにも知らず、一番気難しい女性のところへ経費申請の書類を持って行ってしまった若き男性社員が、不備があると突き返されて呆然としていたような……。

 なんとなくそれを見て気の毒になり、私は気がついたら経理の女性に声をかけていたのだ。
 なんとか彼女のご機嫌を取って不備をその場で直し、無事に申請を通してもらった。

「あの時の人……藤野くんだったの?」

「そうそう」

 正直、その男性の顔なんて見ていなかった。

 いや……たしかお礼を言われたから、正確には見ているはずなのだけど、どんな顔だったか記憶に無い。

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