明日も晴れ

不器用な母が手早く着付けてくれる。



私が生まれる前に着付け教室に通ってたことがあるんだ、と話してくれながら。中学生の頃にも母が着付けたと言うのだけど、私はあまり覚えていない。



着付けのことはわからないけど、上手いか下手かと言えば上手くはない。ちょっと手つきが危なっかしく見えるけど、ここは母に任せるしかなあるまい。



私も大学に入ったら、着付けを習ってみようかしら。



鏡に映った自分が変わっていく。



見たことない格好をしているのが、自分じゃないみたいな。まともに見るのが恥ずかしいみたいな。



この気持ちは、初めて高校の制服を着た時に似てる。



新しい自分に生まれ変わったような、とてもすっきりとした気分。



「草履、玄関に出してるから。コケないように気をつけてなさいよ」

「はあい、行ってきます」



門限にうるさい母が、今日は何にも言わない。



確かに草履は歩きづらいけど、これもまた新鮮。



何だろう、周りの景色まで違って見える。



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