美狐はベッドの上で愛をささやく

「出られなくってごめんなさい!!」


謝りながら勢いよく玄関のドアを開けると、そこには……。





「やあ、紗良(サラ)くん」


黒髪に混ざった白い髪。


眼鏡越しで優しく微笑む、わたしよりもずっと背が高い男性が立っていた。



その人は過去、霊体に悩まされていた頃、いろいろと話を聞いてくれた倉橋(クラハシ)さんだ。




「え? あ……くらはしさん……」


びっくりした。

だって、まさか紅(クレナイ)さんの家で倉橋さんに会えるとは思ってもいなかったから。


唯一、わたしを受け入れてくれた人に会えるなんて、ものすごく嬉しい。




「覚えていてくれて嬉しいな」

「そんな……忘れるなんて……」


――できっこない。


だって、だって……倉橋さんは父と紅さん以外でわたしの存在を唯一認めてくれた、とても優しい人だから。


この人のおかげでわたしは自分の人格を失わずにいられたと言っても過言じゃない。


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