美狐はベッドの上で愛をささやく

前にもどこかで嗅いだことがある。


荒んだ気持ちも一気に消え失せていく、とても優しい香り……。



わたし、この匂い、とても好き……。



あらためて実感すると、もっと匂いを嗅いでいたくなった。


だからわたしはそっと手を伸ばし、目尻を拭ってくれる優しい手に触れた。


すると、その手は伸ばしたわたしの手を握りしめてくれた。



避けられないことが嬉しくて、わたしは顔をずらし、優しい手に唇を近づける……。



手から伝わる体温は、やっぱりあたたかくって、また、泣けてくる。


だから、せっかく拭ってくれた涙が、また流れはじめる。





「おやすみ。ゆっくりと眠りなさい」


甘い薔薇の匂いと一緒で、穏やかな声。


まるで、わたしのことをすべて理解してくれているみたいだ。



わたしは、わたしを取り巻く何もかもを忘れて、男の人の声に誘われるまま、また、意識を手放した……。


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