美狐はベッドの上で愛をささやく
「死ね……」
わたしの首に、さらに力を加える父。
わたしはひとつ抵抗せず、体の横に手を置いて、そっと目を閉じた。
「――紗良――」
……まただ。
わたしを呼ぶ声が聞こえる。
この声は……紅(クレナイ)さん……。
そう思った時だった。
あんなに開かなかったと思った目が、嘘みたいにおもいきり開いた。
そして、目の前には、長いまつ毛に覆われた、赤みを帯びた茶色の綺麗な瞳。
彼の眉間には皺が寄っていた。
あれ?
わたし…………。
「紗良ちゃん? 大丈夫?」
「あ……」
わたしは震える唇を動かし、紅さんを見上げた。
天井にはあたたかなクリーム色がある。
レースのカーテンが、窓から入ってくる風に揺れ、さっきの光景とは打って変わって、とても穏やかだ。
さっきのは……夢?
「くれな……い……さ……」
声を出して、紅さんにさっきのことは夢なのかと尋ねようとすれば、声は掠れ、震えていた。