【完】風中で灯す火
風中で灯す火
「――ん…?」

「……っごめん、起こしてしまったかな」


 真っ白な部屋に、ジャケットのネイビーが浮いている。病院内の人間以外でここに来てくれる人なんて、他にはいない。

 私を起こさず優しく頭を撫でるその手が誰のものかなんて、意識を取り戻した時から、分かり切っていた。


「平気…私こそごめんね、毎日来させてしまって」


 せめて身体を起こしたいのに、もう私にはその力も残されていない。いつから自分がこんな状態だったか、それさえも定かではなくて。

 たった一人足繁くここを訪れてくれる彼に、何一つ返せない歯痒さが何より痛かった。


「謝らないでいいよ。それならありがとうと言われた方が、余程嬉しい」

「……あ、ありがとう」


 緩く私の髪を梳く指先、向けられた暖かな微笑み。胸の奥にじわりと染みて、つられるように私の顔も綻んだ。部屋の温度が、僅かに上がったように感じる。


「ね。…手、握って?」

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