【完】風中で灯す火
 温もりに、焦がれる。医者の先生も看護師さんも、もう分かり切った私の行く末に疲れきっていて、対応に一切の温度はない。

 そっと、ぎゅっと、触れて。そうしてくれないと、冷え切ってしまいそう。


「あぁ、分かったよ。ほら、君の手を――」


 そっと私の手に自身のそれを伸ばす彼。その表情が一瞬固まったのを見て、私は思わず尋ねた。


「……?ど、した、の…………」

「いや、」


 “何でも、ない”


 その言葉を呑み込むより一歩先に自覚した、頬を伝う温かいもの。

 優しい、優しいね、何も言わないでいてくれるんだね。


 彼の優しさが、その温度が、私の胸にも灯る。


「あったかい…」

「それならよかった」


 心底安心したように眉尻を下げて、掌に込めた力を少し強くする。


「…あれ、」



 ナ イ テ ル ノ ?



 この一言が唇から滑り出してから地面に落ちるまで、その自覚はなかった。口を噤むにはあまりに遅すぎて、諦めたように再び彼の方を見る。

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