Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



「……笑うな。針なんかこの世から消えればいいだけだろ」

「で、でも……ぷっ……ふふふ」


よかった、と桃花の笑顔を見て全身が安堵感に包まれる。やっと、やっと笑ってくれた。オレの前で……桃花を笑顔にできた。


そのために下手な芝居を打って拗ねたふりをすれば、呆れたような彼女が吹き出して自然と笑顔が生まれた。


(もっと……もっと笑ってくれ。オレのそばにいて、笑顔でいてほしい)


彼女の笑顔を見た瞬間、衝動的に抱きしめたくなったが何とか堪える。出来たら他の男どもに見せたくなどない。さっきよりも増えた桃花への視線に、威嚇し続けるのは忘れない。


(このまま……拐ってどこかに閉じ込めておけたら)


オレしかいない世界なら、きっと君はオレだけ見るだろう? よそに意識が向くこともなく、頼れるのもオレだけ。

――それはなんて甘美な誘惑だったことか。


桃花が確実にオレに目を向けてくれるなら、望むもの全てをくれてやり、身も心もどろどろになるまで甘やかし、オレから離れられなくなればいい。


(……本当に拐ってしまおうか。このまま、ヴァルヌスへ連れ去って、王太子宮に閉じ込めてしまえば)


危険な思考に支配されそうになった瞬間、桃花の声が聞こえてハッと我に返る。


――今、オレは何を考えた?


自分の中にある狂気に似た想いに、ゾッと背筋が寒くなる。


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