Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



だが、やはり一人きりにすべきではなかった。

桃花の色香に吸い寄せられた虫どもが、わらわらと彼女に近づいていたからだ。


あれだけ威嚇しておいても近づくなどいい度胸だが、容赦はしない。そう思いながら近づいた瞬間――桃花が相手に笑顔を向けたのを知り、頭が真っ白になる。


オレでさえめったに見ない彼女の笑顔を、初対面のヤツが目にするなど許さない。


いや……それよりも。相手に気を赦したらしい桃花に対して、激しい憤りを感じた。そんなに軽い女のはずではないだろう? なぜ、そんなに無防備な笑顔を見知らぬやつに見せる。笑顔を見ていいのはオレだけだ……そう言いたいのに、言える立場じゃない。その現実にひどく苛立つ。


葛城家のボンボン兄弟はオレのパートナーという興味本意で近づいたらしいが、一人は本気で桃花に興味を抱いたらしい。マジで口説いてやがる。


(誰が持っていかせるか!)


話し込んで油断した桃花の背後に近づくと、両手を腰に回してこちらへ引き寄せる。息を飲んだ桃花の驚く顔を見るより、葛城家のボンボンを威嚇する方が重要だった。


(コレは、オレのだ。手を出すなら容赦なくぶっ潰してやる。社会的にも、人生としても。まだ二十代で隠居生活を送りたくないなら、関わるな)


一見軽い笑顔モードだが、そんな含みのある顔で警告すれば、案の定ボンボン兄弟は尻尾を巻いて負けを認めた。それでもそれ以上やつらの目に晒したくなくて、桃花の手を掴む。


アルコールを取ったようだから、酔いざましのためにとミネラルウォーターを手に庭園へ向かった。


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