Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



『あれが噂のモモカ、ね』


他の人間が離れてから、マリアがクスクスと笑う。やはりおかしくて堪らない、という悪戯めいた顔だ。


『あなたがあんなに分かりやすいくらい独占欲を剥き出しにするなんてね。今までどんな美女にも靡かなかったのに』

『……桃花だって美人だ』

『わかってるわよ。私も仕事柄美男も美女もたくさん見てきた。まぁ、“西洋的な基準”や“価値観”からすれば、ね。
マスコミに煽られ他人に造り上げられた狭い基準より、自分なりの価値観で物事を見るあなたは、やっぱり素晴らしいと思うの。
将来的に国を担う一翼となるなら、様々な視点や価値観を持たねばならないものね』


マリアの辛辣な言葉に慣れた身からすれば、彼女がストレートに褒めること自体が珍しい。評価されたと自然と頬が緩んでしまう。“桃花が美人”と認められたことに対して、だが。


『ありがとう。アルベルトは親の敵みたいに桃花を睨んでるがな』

『仕方ないわ。アイツは相変わらず私にも妃になれ、ってうるさいもの。カチコチの回顧主義者なんだから。今どき貴族だの何だの、って。時代遅れもいいとこ。今のオーストリアじゃ事実上身分制度なんて意味ないのに』


フッ、とマリアは微笑んだ。


『だから、そんな古い価値観を壊す為に敢えてモモカを迎え入れようとする。あなたの戦いは厳しいかもしれないけど、きっと国民にも議会にも支持される。私も応援してるから』

『……ありがとう』


マリアの力強い笑みは、自らの力で道を切り開いてきた自信に満ち溢れていて。その彼女の支持を得られたなら、これほど心強いものはなかった。


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