不機嫌主任の溺愛宣言

「……お騒がせして申し訳ありませんでした」

代わりに唇から出た言葉は、感情の欠片も籠もっていなかった。ただ淡々と。義務的に。

可愛くない女だと思われるだろうな。そう思われた方がラクだけど。そう言えば前園主任にはこないだもトラブってる所を見られたっけ。ああ、きっと面倒な女だって思ってるだろうな。

考えながら下げた頭を戻し、再び見上げた顔はとても無表情なものだった。駐車場の灯りが薄暗いせいか、なんだか冷徹に見える。

その冷たく見える眼差しにどこかいたたまれず、その場を去ろうとした一華だったが

「気をつけて帰りなさい」

忠臣は彼女を批難するでも無ければつけこもうとするでもなく、ただそう言い残して踵を返し再びエレベーターへと戻っていった。


※※※


――また彼女は泣きついて来なかったな。

地下駐車場から戻るエレベーターの中で、壁に背中を預けながら忠臣はボンヤリとそう思った。

前回と言い今回と言い、人によってはその場で『恐かった』と泣きついて来てもおかしくないトラブルだ。現に、忠臣はそう言った修羅場に巻き込まれ女に泣きつかれた事が何回もある。

なのに、彼女は涙を零すどころか文句のひとつ、弁明のひとつもせず毅然と頭を下げただけだった。

やはり姫崎一華は変わった女だ。忠臣はそう考えてから胸ポケットに手をやり自分の失態に気がつく。駐車場にライターを取りに行った筈なのに、肝心の目的を果たしていない。

それに気付きフゥ、と溜息を零した忠臣だったが、どうしてか煙草を吸いたいと云う気持ちは消え失せていたので、戻る事はしなかった。

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