不機嫌主任の溺愛宣言

「正直言うと助かりますから。もちろんガソリン代はお支払いしますので、お言葉に甘えさせて下さい。それじゃあ明日朝8時半に。ロータリーにいますのでお願いします」

一華の表情も言葉も淡々としたものだった。けれどそれでも忠臣は体中の血液が沸騰するような高揚感を覚える。ガッツポーズをとって叫びたい気分だ。

けれど当然そんな気持ちは抑えて、忠臣は努めて冷静にポケットから名刺を取り出す。

「携帯番号とアドレスだ。念のため君のも後で教えてくれ」

「分かりました。後ほどメールします」

それを受け取り頭を下げると、サッサカと駅へ向かってしまった一華を忠臣は夢現のような気持ちで眺めた。

――姫崎一華が俺を頼ってくれた。あの、決して弱みを見せず男に縋らない姫崎が、俺を。

心の底から湧き上がる熱い喜びは、忠臣が生まれて初めて体験するものだった。

守りたい、頼られたい。彼女をもっと、知りたい。留めようの無いその気持ちは、忠臣が自分は一生する事がないと確信していたはずの“恋”に、他ならなかったが――

「……体が熱いし脈もおかしい。今年の風邪は性質が悪いな」

彼がそれを認め自覚するのは、もう少しだけ先の話。


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