不機嫌主任の溺愛宣言

「仕事中に社交辞令で掛けた笑顔に勘違いしてる男なんて、馬鹿すぎてこれっぽっちも興味ないんですけど?それから。あの男、必死にメアド渡してきて迷惑してるんで。彼女なら自分の男ぐらいちゃんと躾けてもらえませんか?」

コロコロと鈴が鳴るような声で、背筋がヒヤリとするほど冷たく言い放った言葉に、ノブを握ろうとした忠臣の手が止まった。

「な……なんなの!あんた、ちょっと可愛いからって調子のって!!」

「のった覚えはありませんけど。そもそも何で私に言いにくるんですか?その大事な彼氏に言えばいいじゃないですか。『他の女を見ないで。ちゃんと私を見て』って。それも出来ないで私に八つ当たりして、みっともないですよ」

「……な、……な……」

どうやら威勢よく食って掛かっていた女の方が言い負かされてしまったようだ。ドアの外で会話を聞いていた忠臣はゴクリと息を呑む。

「それに、失礼ですけどあなた彼氏を繋ぎとめる努力してませんよね?髪も痛んでるし肌も荒れてる。アイラインの引き方も雑だし。そんなので彼氏にそっぽ向かれたからって、私に怒るなんてお門違いもいいとこ。本当みっとも…」

その言葉の続きはバチンと云う衝撃音で打ち消された。何が起こったかを察し、忠臣は慌ててドアを開ける。

「おい!何してるんだ!やめろ!」

薄暗い倉庫の中には、鬼の形相で相手に掴みかかってる女の姿と。赤くなった左頬を気にもせず冷ややかな目をしている、天使のような愛らしい容姿の女が立っていた。

「営業時間中だぞ!これ以上問題を起こすなら店から出て行け!」

尋常じゃない怒りを見せる女の腕を掴み止めて、忠臣は厳しく言い放つ。

「放して!許せないこの女!放して!」

ジタバタと暴れる女とは対照的に、左頬を腫らした女は「失礼しました」そう冷静に忠臣に向かって頭を下げると、何事もなかったかのように倉庫からキビキビと出て行った。
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