不機嫌主任の溺愛宣言

けれど、どんなに失恋のせいで心身が衰弱しようとも、仕事は仕事だ。

忠臣は1度大きく息を吐き出すと、自分の腕時計を見て颯爽と立ち上がった。

「もうすぐ本部長が来られるな。右近、小会議室の準備は出来てるか」

物産展の打ち合わせと視察に来る上司を迎えるため、忠臣は情けない自分を振り切るように気持ちを切り替えた。途端に凛々しい“働く男”の顔になった忠臣に、右近はいつもの安心感を覚える。

「はい、大丈夫です。資料は運んでおきますので主任はどうぞ部長のお出迎えに」

やっぱりこの人は厳しい顔をして仕事に向き合ってる方が似合うなぁと、キビキビと地下駐車場へ向かう上司を見送った。


※※※


「まあまあね。活気もあるし客数もそこそこある。これなら物産展の売り上げも期待出来そうね」

「必ず期待に応えられる数字が出せるかと」


福見屋地下食品部門統括部長の上原梓(うえはら あずさ)を連れて、忠臣は地下食品売り場の視察案内をする。

梓は福見屋常務の娘でもあり、女でありながらやり手の本社社員で、若干42歳の若さで部長の肩書きを得た、忠臣にとって頭の上がらない存在の上司だ。

グラマラスな身体を白のパンツスーツに包み、アイラインに濃く縁取られた瞳で売り場を満遍なく見渡す梓の姿は見るからに威圧的だ。

そして。

「ああ、あれが噂の…」

彼女の鋭い眼差しが、行列を作っている一件の店舗を捉えた。
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