不機嫌主任の溺愛宣言

※※※


前園忠臣、人生初の本気デート当日。天候はあいにくの雨だけど彼の心にはすでに幾本もの虹が掛かっている。昨夜、興奮のあまりなかなか寝付けず、羊を三万四千まで数えたせいで少々隈は出来ているが。

食事のときにワインを飲むだろうと云う事も考えて、移動は電車にした。アートギャラリーにも駐車場は無いし、移動のつどコインパーキングを探すのも手間だ。そうして待ち合わせたのは戸田駅。いつも一華を迎えに来る駅ではあるけれど、忠臣の目にはなんだか今日は違って見える。

待ち合わせの20分前に駅に着いた忠臣は、ひたすらソワソワしながら小雨の振る空を何度も眺めた。彼女を待つ時間は焦れったくもあり楽しみでもあり。そして、約束の5分前。

「こんにちは主任。お待たせしました」

鈴が鳴るような愛らしい声を背後から掛けられて、忠臣の鼓動がピークを迎える。ゆっくり振り返ってみれば、スモーキーピンクの花柄ワンピースに薄紫のショート丈カーディガンを羽織ったいつにも増して可憐な姿の姫崎一華が。その姿は、忠臣があれこれ想像していた一華のデートスタイルより数十倍も魅力的に瞳に映り、彼はときめき過ぎる胸を押さえながらその場に崩れ落ちそうになるのをぐっと堪えた。

いつもの送迎で一華のワンピース姿というのは見た事が無かった。という事は、彼女にとっても今日はワンピースを着るほどの特別な日だと認識してると思って間違いないのだろうか。そんな期待と自惚れの混じった思考をおくびにも出さず、忠臣は

「やあ」

とだけ、冷静を装って挨拶を返した。

ワンピースもさることながら、耳にはリボンモチーフのパールイヤリング、いつもは仕事上スッピンの爪にもペールピンクのネイルが施され、やはり彼女もそれなりにデートスタイルとして気を入れてきた事が伺える。

可憐過ぎるその容姿が目に眩しいのはもちろんだが、自分とのデートのために着飾ってきてくれたのかと思うと、忠臣はもうそれだけで充分すぎるほど満たされてしまった。
 
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