ロールキャベツ

5月に入り、少しだけ太陽が暑く感じられるようになった頃。

ゴールデンウィークを全て仕事に捧げた私は、二日間の休暇を得ることができた。

この機会に小島さんにまた逢いたいな…そう思って連絡をしたのが先週。

今日私に会う為だけに東京に出てきてくれる小島さんに、デパートでお菓子を買っていった。

カラフルな色のマカロンとクッキーの詰め合わせなら、きっと喜んでくれるはずだ。


私が指定した料理屋の前に小島さんは立っていた。

「小島さん!お待たせしました」

「全然大丈夫よ」

「ありがとうございます。入りましょう、予約してあるんです」

お店は地下だから、私が先に階段を降りて案内した。ここの料理屋は和食がメイン。昼間は定食を中心にメニューが作られている。

全席個室だから気兼ねなく会話をできるだろうと思ってここにした。


「よく来るの?このお店」

「はい。雰囲気いいでしょう?」

「ええ、とても。こんなに良いお店に通うようになったのねぇ…」

個室の天井の隅々まで見渡しながら小島さんは言った。

私は和風ハンバーグ定食、小島さんは煮魚定食を注文した。



「朋香ちゃん、綺麗になったわね」

まるで子供を見つめるような優しい目で私を見る。小島さんは、私のことを娘みたいに思ってくれてたのかな…

「小島さんにそう言ってもらえると嬉しいです」

「いくつになったの?」

「先月で26です」

「もう本当の大人なのね…」

感心するように何度も頷いている。
小島さんの目に私は立派な大人として映っているのだろうか。


「いつからこっちに住んでいるの?」

「高校卒業と同時にこっちに来たんです。

東京の大学に進学したので。

それからずっとこっちにいます」

「それであのホテルに就職を?」

「はい。もう4年目になります」

料理が運ばれてくるまで、お互いの近況を聞きあった。

小島さんは体を壊して吉良家の家政婦をやめてから、全く仕事をしていないらしい。

お姉さんの旦那さんがお亡くなりになってからは、実家でお姉さんと二人で暮らしているんだとか。

二人とも仕事をせずに料理をしたり趣味を楽しむのがとても幸せだと言うその笑顔がとても素敵。


「10年も仕事をしていないなんて、日本国民としていけないわよねぇ」

冗談っぽくそう笑う小島さんだけど、私はそんなことないと思う。

小島さんはもう還暦に近いだろうし、吉良家の家政婦として何年間も働いてくださったから。


綺麗な部屋も、美味しい料理も、良い匂いの服も、ひとりの筈だった時間を埋めてくれたのも、全部全部小島さん。

私の今までの思い出の中に、小島さんは欠かせない人なんだよね――

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