ロールキャベツ
「森崎さん…素直になれないだけなんだよ。
本当は誰よりも、不器用なのかもしれない。
結婚したいと思ってるから、
悲しかったんだよ。
だけど悲しむのはらしくないから…
強がってる、だけなんだよ…」
あれ、私、何言ってんだろ。
勝手に森崎さんの説明書みたいなこと言い出してさ。
彼女の方が分かってるってのに。
ただの、馬鹿じゃない?
伏し目がちに見たあさみは、正直、気持ち悪いくらいの笑顔だった。
「朋香みたいな子が、私は好きだよ」
少しだけ目を潤ませるあさみが、どうしようもなく愛しかった。
「森崎と結婚したいと思ってる。
朋香の結婚が決まって余計に思ったの。
だけど仕事も大事で、お互いに忙しい。
私は仕事をのけ者にはしたくない。
じゃあどうしたらいいのかって…思ってたんだけど」
いつもより声も小さくて、弱気で、堂々としているあさみとは別人みたいだった。
だけどこの小さい子供みたいなのも、
私の大事な親友の、あさみであって。
「朋香の言葉を聞いて、わかった気がする。
森崎は慕われているんだね。
じゃあ私もやっぱり、あの人の今を奪いたくない。
このままで、ゆったり付き合っていくのもいいかもしれない」
あさみの笑顔は、晴れ晴れとしていて。
それはいつも見る、明るくて胸を張って生きている彼女だった。
「結婚がゴールってわけじゃないもんね」
私の言葉は、あさみにも、私にも言えること。
私は結婚するけれど、そこから新しい生活がある。
あさみはまだ結婚はしないかもしれないけど、それはそれでお互いを尊重しあえる仲でいられる。
「そうだね。ゴールがないって、素敵だね」
あさみのこの笑顔が、私は大好き。
「朋香、泊まってくでしょ?」
「当たり前」
このやり取りも、もう何度してきたことか。
中学生から、朋香とはずっと仲良し。
大人になって成長して、話す話題も変わったけれど。
今も、この先もずっと変わらず大事な親友。
だから森崎さん、泣かせたらシメますよ。
遠くで、森崎さんの“寒い”と言う声が聞こえた気がした。