ロールキャベツ


先週、彼の実家に行った。

東京の郊外の大きい一軒家だった。


玄関で迎えてくれたお母さんは、綺麗だけど、どこかホッとするような温かみを持つような人だった。

正直、彼の家はお金持ちだからお母さんはこう…ギスギスした感じなのかなって、思っていたんだけど。

大きい一息をつきそうになったのを、我慢したのを覚えている。


お家の中に入って、広すぎるリビングのソファーでお母さん手作りのロールケーキを頂いた。

その時、二階の方から降りてきたのは、彼の弟さんだった。
彼によく似て、ハンサムな顔立ちだった。

弟さんも一緒に、ロールケーキを食べながらたわいもない話をした。



こんなことって、本当にあるんだ。
私は、終始そう思っていた。

母親の手作りのお菓子を食べながら、話したり。テレビを一緒に見たり。

そんなのは、ドラマや映画の中だけの世界だと思っていた。

お金持ちだから…なのかな。


いや、違う。
普通の家はどこだって、こうなんだよね。

こんな風に心から楽しんではいなくても、一緒にリビングにいたりはするんだよね。


それを不思議に思う私が、普通じゃないだけ…なんだよね。


夕方になって帰ってこられたお父さんは、不動産屋の社長らしく。
だけどそんな堅苦しい感じでもなく、お母さんのように温かみを感じた。

この家族は、綺麗だな。

私はひとり傍観者のように、見つめていた。

家族が話す内容は、下らないものばかりなのに。

こんなにも楽しそうに笑いあえている。
何も、誰も、面白いことなんて言っていないのに。

私は口角を上げていることに必死だった。


本当は、泣きたい気分だった。

私もこんな家に生まれたかったと。
泣き叫びたかった。


でも、泣かなくていい。
私はこれから、この人たちの家族になるんだから。

家族団らん、というものに慣れて、こうして無理して笑うこともきっと無くなる。

今はまだ、始めだから。


温かい家庭に、これから私は入っていく。



その前にひとつ、乗り越えなきゃいけない壁があることが、私の心を支配していた。

< 10 / 55 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop